東京展ギャラリートーク① 岩井秀樹先生

東京展の2会場で、計12回にわたり行われた東京展実行委員(常任理事)の先生方によるギャラリートーク(作品解説)を、順次リポートします。

 

岩井秀樹先生(かな) 823日、東京都美術館

 執行役員以上の先生方の調和体作品を中心に解説されました。

 

岩井先生はまず、漢字かな交じりの「読める書」をめざす「調和体」が生まれてきた経緯を振り返り、「まだ歴史がないため、書の作品として調和体がどういう形で成長していくか、先生方が模索をされている時期かなと思います」と現状認識を述べました。

 

読売書法展に調和体部門が設けられたのは、今から24年前の第12回展。当初は読みやすさを重視して、かなの場合は「連綿をなるべく避ける」「かな作品の散らし書きのように特別広い空間を取ることを避ける」などの細かいルールが定められていました。

しかし岩井先生は、ルールが次第に簡素化されてきたのに伴い、かなの先生方の中には日頃のかな作品の雰囲気で書く傾向が表れているのではないか──との見方を示しました。

 

 それを意識的に試みた例として挙げられたのが、高木厚人先生(かな)の調和体作品。国立新美術館に展示されたかな作品の和歌二首のうち、一首目を調和体として書いた作品で、岩井先生は「印象は『かな作品』と変わらないが、よく見ると『かな作品』にはない濁点があり、変体仮名も使われていない」と指摘しました。

 

また、黒田賢一先生(かな)の作品「磨(ま)すれども磷(うすろ)がず」(『論語』)に少ない文字数ながらも散らし書きの構成が感じられ、井茂圭洞先生の作品にも潤渇の使い分け、山場のつくり方など、かな作品と同じような雰囲気がある点に注目しました。

 

岩井先生は、かなの先生方による調和体作品には、かな特有の「散らし書き」がごく自然体で表現されていると述べ、「『散らしはどのようなものがきれいなんですか?』とよく聞かれますが、特別な定義はない。『散らしに失敗すると、“散らかし”になる。散らしの間に『か』が入っちゃったらダメなんです』としか言いようがありません」と聴衆の笑いを誘いながら説明しました。

 

さらに、調和体作品における題材の選び方にも話題を広げ、土橋靖子先生(かな)の作品を紹介。題材は「蜂はお花の中に お花はお庭の中に・・」で始まる童謡詩人・金子みすゞの詩で、「中に」という言葉が最終行まで8回も繰り返されています。「行書きにすると、全部下に『中に』の言葉が並んでしまう。そこで散らし(書き)にされたようです」。その結果、行間と散らしの妙に富んだ作品になっていることを指摘し、「何を書こうかと思った時、つい書きやすい題材を選んでしまうものですが、難しい題材に挑戦されている。調和体作品だからこそ挑戦できたのかもしれません」と述べました。

 

最後に岩井先生は、「今年はかなの先生方の調和体作品に、日頃のかな作品とあまり変わらないものが多かったと思います。かなの調和体は、これからその方向に行くのかもしれません」と改めて指摘しました。

 

 

 

2019年9月2日(月)17:00