成田山書道美術館で「明治150年の書道」展

成田山書道美術館(千葉県成田市)の開館25周年を記念した名品選「明治150年の書道」が6月から半年間にわたって開かれています。

Ⅰ期「混沌の時代〈明治〉」(6月16日~8月26日)、Ⅱ期「書壇の確立〈大正・昭和初期〉」(9月1日~10月21日)、Ⅲ期「新生と爛熟、これから。〈昭和後期・平成〉」(10月27日~12月16日)の3期で構成。明治維新から今日までに大きな変化を遂げてきた近現代の書の流れを、成田山新勝寺の所蔵品も含む豊富なコレクションから200点あまりを選んで紹介しています。

 

Ⅱ期「書壇の確立〈大正・昭和初期〉」 西川寧、小坂奇石、手島右卿、津金寉仙、大池晴嵐の書(左から)

公益財団法人成田山文化財団が運営する同美術館は、1992年に開館。約2000件の所蔵品でスタートしましたが、その後も数多くの寄贈を受け続け、現在では3倍の約6000件にのぼります。

山﨑亮・学芸主任は「25年でここまでコレクションを大きくさせていただいた。寄贈者の皆さまに還元する気持ちもあります」と企画のもう一つの趣旨を説明します。

 

Ⅰ期「混沌の時代〈明治〉」は、新政府で公用文書を扱う部署に日下部鳴鶴、巌谷一六などの「唐様(からよう)」の書を得意とする人々が集まったため、公用書体が江戸時代の「御家流」から唐様へと変化していった時期。一方で従来の古い書体も存在しており、国交を結んだ中国との交流から当時の清で流行していた碑学も盛んとなって、まさに混沌とした状況を呈します。

 

Ⅱ期「書壇の確立〈大正・昭和初期〉」は1910年生まれまで、つまり明治生まれの書家を集めています。明治初期に人気を集めた書画会が中期から大正期にかけて衰退するにつれ、書家たちは内国勧業博覧会などの博覧会から発展した展覧会に出品するようになりました。やがて書道展が開かれ、書壇が形成されて、「文人肌の時代と、展覧会の時代が“半々”」(山﨑学芸主任)という状況を迎えます。

この時期は今日活躍する書家の師や、さらにその師の世代が活躍します。比田井天来、尾上柴舟、鈴木翠軒、西川寧、桑田笹舟、日比野五鳳、手島右卿、金子鷗亭、上條信山など、一家を成した書家の作品が並びます、

 

Ⅱ期「書壇の確立〈大正・昭和初期〉」 辻本史邑、松本芳翠、岸田劉生、大澤雅休、吉田苞竹の書(左から)

また、Ⅰ期で紹介した夏目漱石、正岡子規、中村不折などの文学者、画家に続いて、Ⅱ期でも島崎藤村、河東碧梧桐、与謝野晶子といった文学者や、日本画・洋画を問わず川合玉堂、熊谷守一、安田靫彦、梅原龍三郎、岸田劉生などの画家が、個性的な書を残しているのも目を引きます。

書が文人趣味として、また知識人の素養として、社会に広く浸透していた様子がうかがわれます。

 

最後をしめくくるⅢ期「新生と爛熟、これから。〈昭和後期・平成〉」は、まさに現代の書を扱う内容。山﨑学芸主任はこの時期の特色として「作品の大作化、表現主義、前衛作品の発展」などを挙げます。そして「戦後の表現主義が平成の末年に至って行き着くところまで行き、実用の書と展覧会で見せる書が乖離してきている時代に、再び本流に戻ろうとする書家の方もいるように感じています」と話します。

自作の詩や言葉を書にする「詩書一体」の姿勢も、そうした方向性の一つ。その中から、未曾有の災害に直面し、心境を詠じた漢詩を書いた吉澤鐵之先生の「東日本大震災十二首屏風」のように、時代を象徴するような作品も生まれました。

 

明治から150年の書道史を振り返るとともに、これからの書を展望するきっかけとなる展覧会です。展覧会図録は芸術新聞社から『成田山書道美術館所蔵名品選 明治一五〇年の書道』のタイトルで刊行されました(本体価格4167円)。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2018年10月16日(火)16:27