東京展ギャラリートーク 日賀野琢先生

日賀野琢先生 8月29日、東京都美術館

 

 

日賀野琢先生(漢字)が読売大賞・準大賞、読売新聞社賞の漢字作品を中心に解説されました。

 

日賀野先生は、読売大賞に選ばれた森上洋光さんの小篆による作品について、「秦の始皇帝が定めた小篆のスタイルだけでなく、清朝時代に復古運動が起きた時に趙之謙、呉譲之、徐三庚といった書家たちが独自にアレンジして書き残した小篆あたりにもヒントを得て書かれている」と指摘されました。

さらに、「小篆の様式美にしっかりはまり、重厚な雰囲気が伝わってきます。ただ、それだけでは作者の鼓動やリズムが伝わらないので、運筆の中に太い・細いの変化をつけています。さらに字の重心を半分より上にして足長(長脚篆)にし、ワイングラスのように高貴でスタイリッシュな姿を演出した。そうすると下部が不安定になるので、終筆の所をちょっと太くして、全体の安定を取っている。線と線の間に空白を作って風通しを良くし、疎なる所と密なる所をうまくミックスさせています」と作者の工夫を細かく分析されました。

 

読売準大賞の小出聖州さんの作品は、「篆書が隷書に変わっていくあたりを題材にされて書かれている」と紹介。「(篆書が完成された)小篆は作品にしづらいが、ちょっと崩れて隷書になっていくあたりを作品にすると、実は楽しいんです。ものが完成される前や、ちょっと崩れていく過程をうまく題材に採ると、結構自由に表現できます」と述べられました。

 

同じく読売準大賞の窪山墨翠さんの作品は、一字目に注目=写真=。「筆をボーンと打ち付けたところに、まるで交響楽でシンバルが鳴ってジャジャジャジャーン、と始まるような音楽性を感じます。最初がうまく行って、よしっ、と興に乗られたのかなと思います」と評されました。

同じく読売準大賞の筈井淳さんの作品については、線の粘りを特色に挙げられました。

 

日賀野先生は「書は追体験ができます。作者が筆を下ろした時の様子を想像し、自分も書いているような気分になる。そのつもりになると、作者のリズム、鼓動が伝わってくる。古典は手習いすることが重要ですが、もう一つ『目習い』といって、目で習うことも大切。皆さんも作品を見る時は、ぜひ追体験して字の流れを追い、それからちょっと離れて全体のリズム感や構成を見ていただくといいかなと思います」とアドバイスされました。

 

また、書を見に来てくれる一般の人に向けて、「『読めない、分からない、だから書はつまらない』とみんなバリアを張ってしまいます。漢詩を書いた時は、「いい意味の詩だったね」と言われます。私の立場としては、意味を積極的に伝えようとしているわけではなくて、あくまでも文字の姿、形を見てほしいというところがあります」と語りかけられました。

 

 

2018年8月30日(木)17:30