東京展の席上揮毫・篆刻会

東京展の開催中、8月29日午後2時から国立新美術館で席上揮毫・篆刻会が開かれました。その模様をリポートします。

 

一色白泉先生の司会で、最初に篆刻の和中簡堂先生が登場。会場のスクリーンに和中先生の手元が拡大して映写されると、約300人の観客は息を詰めて印刀の動きを見守りました。

和中先生は中国・北宋の詩人、蘇軾(蘇東坡)の句「風洗蒸」(風、蒸を洗う)を刻(ほ)りながら、「イメージは大体できていますが、自然な刀(とう)の動きをうまく利用して、刀の筆致というものが出るように刻っていきます」と説明されました。また、「(この石は)意外と硬いですね。師の小林斗盦(とあん)先生がよく『印材を選ぶのも実力の内だよ』と言われていました」と笑いを誘うと、「削っては刻り直すことを何時間でもやっています。大体は夜中に刻りますが、こうやっている間に夜明けになり、昼になります」と激しい制作ぶりを披露されました。

 

続いて今回展の審査部長、かなの黒田賢一先生が万葉集の「時は今は春になりぬとみ雪降る遠き山辺に霞棚引く」(中臣朝臣武良自)を三尺×八尺の横作品に揮毫し、「強い線を出すために、紙の大きさに対して小ぶりの筆を使うようにしています」と説明されました。また、「線が一番ですが、白(余白)が美しくないと絶対ダメというのが信念。画家の池大雅が『描かない白を描くのに一番苦労する』ということを言ったそうですが、自分もそれを追求してきたつもりです」と語られました。さらに調和体作品として、羽生善治竜王の言葉「忘れていくというのは次に進むために大事な境地である」を淡墨で揮毫されました。

 

最後に漢字の星弘道先生が登場。筆と料紙について説明されたあと、大字で「妙墨」と力強く揮毫し、昨年11月に亡くなられた篆刻の河野隆先生に作ってもらったという落款印を捺されました。さらに調和体作品として、アメリカの詩人サミュエル・ウルマンの詩句「年を重ねただけで人は老いない 理想を失う時に初めて老いがくる」を一息に揮毫。司会の一色先生から「星先生の行書の作品には1本だけ非常に細い線があって、それが作品全体に雰囲気を持たせている気がします。意図的なものですか?」と質問されると、「ピリッとした線が1本くらい入っていた方がいいかなと思っています」と答えられていました。

 

2018年8月30日(木)14:00