東京展ギャラリートーク 有岡先生

有岡ᤸ崖先生 8月24日、国立新美術館   ※ᤸは「夋」に「阝」

 

有岡ᤸ崖先生(漢字)が、第35回を記念する特別展示「読める書への挑戦」の出品作品を解説されました。

 

読売書法展では一般の方にも書を楽しんでもらえるようにと、第12回展から「調和体」部門を新設し、漢字かな交じり書に取り組んでいます。

有岡先生は「その機運はずいぶん前からありました。漢字かな交じり文、調和体、近代詩文書など、呼び名はいろいろありますが、漢字とかなを合わせて書き、皆さま方に読んでいただこうという点については共通している」として、理由を次のように説明されました。

 

 

「現代は日常でもほとんど活字、または楷書体を目にしていますが、江戸時代は草書とかな、それも変体がなでした。変体がなを連綿を使って書くと非常に早く書けるため、日常生活に非常にマッチしていた。しかし、学校教育の場で漢詩・漢文の素養を身につけたり、和歌を詠んだりする授業が徐々に減り、書を見に来られた方から『何と書いてあるのか分からない』という言葉を多く聞くようになりました」

 

それでは、具体的にどう書けば「読める書」になるのでしょう。

有岡先生は「行書・草書・変体がな」という、現代人にはなかなか読めなくなった書体とともに、内容を理解してもらう難しさを課題に挙げられました。「ある程度は読めても、江戸時代の言葉遣い、明治時代の言い回しで書かれていたら、内容の理解まで行くかどうか」という懸念です。

さらに、「読めるだけなら活字で十分ということになる。美的に表現し、鑑賞に堪え得る作品にしなければいけない」と作家としての姿勢を語り、調和体部門の新設から四半世紀近く経た現在でも「調和体とはこういうものですよと、どのあたりで折り合いを付けて定義づけするか、いまだに出来ておりません。作家の中にも戸惑いがある」と率直に述べられました。

 

その上で、特別展示の出品作の見どころを一つ一つ紹介。先達の書家たちが、奇をてらわず自然体で、あるいは大胆に形を崩して書いたと見える作品にも、おのずから長年の鍛錬で磨き上げた感性や線質が表れていることを指摘されました。

また、自作の詩や短歌を書いた作品の味わい深さ、親しみやすさに触れ、「歴代の有名な書家は、王羲之でも王鐸でも自分の言葉を書いていた。日本でもおよそ自分が詠んだ歌を書いている。名文を作る必要はない。旅先の光景で感じたことや、ちょっと気づいたことでも書いてみる、そんなことでいいと思います」と述べられました。

 

最後に有岡先生は「どうか皆さんも調和体にチャレンジしていただきたい。多くの方がチャレンジすることによって、この分野は開拓され、成熟して参ります。私も皆さんと一緒に勉強したいと思っています」と結ばれました。

2018年8月28日(火)08:36