東京展ギャラリートーク 3 有岡先生+河西先生

第34回読売書法展のギャラリートークが、31日午後、読売書法会常任理事の有岡●(シュン)崖先生(漢字)=写真上 右=と河西樸堂先生(篆刻)=写真下 中央左=をお迎えして開かれました。
役員書家の先生方の作品と大賞、準大賞の作品について、約1時間にわたって解説されました。

 

河西先生(篆刻):

河西先生はまず、篆刻の常任理事の先生方の作品をとりあげ、使用されている殷・甲骨文字から周・金文、戦国・篆文、秦・小篆、漢・印篆、後漢以降の鑿印まで、時代ごとの文字の特徴を解説し、さらに、たとえば同じ小篆を使っていても多様な作品があることを作品に即して説明されました。隋、唐の時代にも印に使われた字体はあるものの、篆刻では後漢の印篆までが模範とすべき古典とされており、常任理事の先生方の作品も印篆までを題材とされています。読売書法展では、各先生とも古典を重視、尊重して制作に取り組まれていることを強調されました。
また、紙質、印泥の色合いにもそれぞれの先生の感覚、傾向があり、印泥は一人の先生でも10種類を超える印泥から選ばれるとのこと。また、落款、側款にも朱と黒の対比など構成上の考えが反映されていることに触れられました。
準大賞の辻敬齋さんは朱文は甲骨文、白文は鑿印調の作品ですが、共通して言えるのは線質の鋭さ、強さです。「パッと見て、線の印象が強い。ぽつんと置かれていてもまったく寂しくないですね」と作品の魅力を解説されました。

 

有岡先生:

有岡先生は、まず、作品を見る際のポイントとして、造形の美、鍛錬された線の魅力、白と黒の対比などをご指摘。最高幹部の先生方の作品の、線の生命感や卓越した白の残し方・取り込み方を紹介された後、読売大賞・準大賞の解説をされました。

大賞の折川司さんの作品は、2年連続となる調和体の作品です。中心となる「霊」の字の「ドンと筆を置いて、飛沫が飛ぶ」ところに注目し、その求心力が作品の大きな力になっていることを指摘されました。

続いて準大賞を展示に沿って解説されました。まず、筈井淳さん(漢字)の作品は、大胆な線の使い方、隣の字との関係に注目しつつ、「一気に書き、滞ったところがないのが魅力」と見どころを紹介。

大池青岑さん(調和体)の作品については、直線的な楷書に対してひらがなは曲線が多いなど、漢字とひらがな、カタカナを一緒に書くことの難しさに触れた上で、大池さんが行草を用いることによって漢字とひらがなとの親和性を高めていることを指摘。さらに「カーン」の「ー」という縦の一本棒に多少屈折を入れ、ややカーブさせているところなどに注目し「工夫を感じさせずにさらりとやってのけた」と評されました。

岩井秀樹さん(かな)の巻子については、古筆の美をその魅力の第一に挙げられました。落ち着いた雰囲気を醸し出す、やや茶系の紙にも触れつつ、微妙で流麗な線を「澄みきった線」と表現されました。

城市魁岳さん(漢字)の作品では、「最初から最後まで一気に書いた、停滞のない痛快さ」とその魅力を語られました。本文と一体化したかのような落款の妙味にも着目されました。

澤藤華星さん(漢字)は金文の作品です。線を「つぶさない」で残し、それによって空間が微妙に残り、明るさが生み出されていることを指摘。微妙、絶妙な構成と技術に注目されました。

川合広太郎さん(かな)の作品では、筆が開いたり閉じたりする筆法を取り上げ、岩井さんの細い字体と比較しながら、線の美しさの多様性に言及されました。

山内香鶴さん(漢字)は、筆の先が開いた「はじけた」筆遣いの多さや、絶妙な行間が作品を明るくしていることに注目。最後に字がだんだん小さくなっていく箇所を「なかなかオシャレでニクイ」と評されました。

 

2017年9月3日(日)13:34