東京展ギャラリートーク 2 高木厚人先生

 

第34回読売書法展東京展のギャラリ-ト-ク第2回は、28日、国立新美術館1階展示室で高木厚人先生=写真右=をお迎えして開かれました。

高木先生は幹部役員の作品と大賞、準大賞作品について、約1時間にわたって魅力や見どころを解説。熱心にメモを取る聴衆の姿が印象的でした。

 

高木厚人先生のトーク:

最高顧問、顧問、常任総務の先生方の作品を見て共通して感じるのは、ご自身の思いを作品に封じ込むように書いておられることです。ご自身のリズムで書き進め、そこに気持ちが入ってくるわけですが、その様子が伝わってきます。

仮名作品について見てみましょう。
井茂圭洞先生の「自然」(良寛)は、大きな字、小さな字それぞれに役割が与えられ、作品全体がゆるぎなく構成されています。美術的とも言えるダイナミックな作品です。和泉式部続集切を生かした作品の理念、方法論、構成がわかりやすく伝わり、作品ということを考える手掛かりになると思います。 

榎倉香邨先生は今年も若山牧水を取り上げられました。私たちは題材選びに時間をかけることもありますが、自分が最も惹かれる歌詠みに主題を決めて、とことん書き続けるという姿勢。素敵です。

今年逝去された黒野清宇先生は独特の万葉仮名の使い方に魅力があります。文字使いのヒントになります。

一方、池田桂鳳先生の「芭蕉四句」は、文字を大事にする書きぶりで、文字の表情そのもののが生かされた風趣が魅力です。大きな字も小さな字も生まれながらのものが生かされ、そのために作品は自然で、すべての文字は「幸せな字」になっています。

黒田賢一先生の作品は、明るい墨色で、間を空けないで詰め込む墨継ぎに独特のリズムがあります。渇筆から潤筆に移る時、多くは間をおくものですが、墨が減ってきたところに食い込ませていくエネルギーに注目してください。

書についての心構えに関することですが、今年逝去された高木聖鶴先生は、多くの作品で太い線と細い線の掛け合いによる大胆な山場をつくられました。先生が一番魅せられていたのは升色紙でした。太い線に寄り添う細い線のそこはかとない感じは絶妙です。古今集はすべて暗記されていたと伺いました。先生の作品のリズムは和歌を暗記してこそ生まれるリズムです。私はその時、題材とする和歌くらいは覚えていないといけない、と意を新たにしました。

私は杉岡華邨先生に師事したのですが、入門した頃の60代の先生の書に惹かれていました。先生は70代、80代と先生の世界を進んでいかれるわけですが、私は60代の頃の先生の作品を常に意識し、その世界を目標にしていきましたが、先生もそれを見守ってくださいました。その時々、師から何を学びたいのか自覚することも必要と思います。

書に対する素直な気持ち、集中力も大事なポイントです。先ほど控え室で新井光風先生のお話を伺っていたのですが、学生の指導にあたり、頭の動きを見れば学生の伸び代がわかると話しておられました。たとえば「一」という字を臨書する時に、一度手本を見て一気に書いてしまう学生もいますが、それでは自分が既に知っている「一」を再現するだけで終わってしまいます。書き始めから終筆まで7回も8回も手本を見る学生は、細部まで徹底的に観察し、身につけようとしています。こうした学生は結果的に伸びているといいます。外国人は日本の文字を知らないため、手本を見る時に形を素直に丁寧に見て書くので、びっくりするほど似て書く人がいるそうです。なるほどと思いました。中国からの留学生なども仮名は手本をしっかり見て書くので、日本の学生よりも上手な人がいるんですね。

最後になりましたが、やはり目を養うことが一番大切です。古典の真跡を見ること、そして、社中展等をご覧になる時は、それぞれの社中の目指している世界を関係者の方に尋ねてみると良いと思います。自分の方法に閉じこもらず、おおいに書作に励んでください。

=高木厚人先生のトークの概要は以上です=

次回のギャラリ-ト-クは8月31日14時、国立新美術館1階展示室で篆刻の河西樸堂先生をお迎えして開催されます。

 

 

2017年8月29日(火)13:18