東京展ギャラリートーク⑥ 齊藤紫香先生

齊藤紫香先生(かな) 8月28日、東京都美術館

執行役員以上の先生方の調和体作品を中心に解説されました。

 

今回展では、過去の東京展における席上揮毫・篆刻会の映像が会場の一角で初めて上映され、来場者の大変好評でした。齊藤先生のトーク開始直前には、ちょうど先生が2015年の第32回展で揮毫した時の映像が流れ、多くの来場者が熱心に鑑賞しました。

 

 

齊藤先生はそれを受けて、「(映像を見た方から)『ゆっくりお書きになるんですね』と言われましたが、日頃から心がけて、はやる気持ちを抑えながらゆっくり書こうという思いで書いています。湿るような紙はそんなにゆっくり書いていられませんが、加工紙のようなものに書く時は、なるべくしっかりと(紙に墨が)食い込むように書くよう努力しています」と説明しました。

 

 

齊藤先生は「調和体は、考えていること、関心あることがそのまま出るもの。先生方が今どういうことをお考えになっていらっしゃるのか、どういうことに興味を持っていらっしゃるのかを鑑みることができる。私はそれも楽しみに見させていただいています」と前置きして、作品を解説しました。

 

 

 

 

 

師田久子先生の「海」の表現(冒頭部分)

師田久子先生の作品は、小川未明の詩「海と太陽」の一節。「『海』という文字が6回、『太陽』が3回出てきますが、何度も出てくる文字をいかに処理するかが表現者として悩むところ」と述べ、字に変化をつけたり、空間の取り方を工夫したりしていることを説明しました。

 

 

 

 

 

 

齊藤先生は「角元正燦先生(漢字)に調和体の書き方についてお尋ねした時に、『十七帖』(王義之)や『書譜』(孫過庭)の草書体を混ぜるような気持ちで、漢字に仮名が負けないように書いているとおっしゃられた。私は、かな作家として『調和体を書く時は漢字を少し大きく、かなは小さく書くとまとまりますよ』と指導していますが、漢字の先生方がそんな考え方をお持ちだと知って勉強になった。自分も何かの時はそのように挑戦してみたい」と述べました。

一方で、同じ漢字書家の星弘道先生は「どちらかと言うとかなを小さめに書き、全体的に文字を少し左に傾けて行間をすっきりまとめていらっしゃる」と表現方法の違いを説明しました。

 

高木厚人先生の作品は、ギャラリートークで何人もの先生方が、かな作品の雰囲気で書かれた調和体作品として注目してきました。齊藤先生は「変体仮名を使わなくても、いかにかな作品と見えるかという挑戦ではないかと思います」との見方を述べました。

 

黒田賢一先生の「磨すれども磷(うすろ)がず」(論語)は、「『磨』の一文字を1行目に、『すれども』を2行目に持ってきた構成が斬新。かな書家でも強い線が引ける黒田先生でなければ表現できないことかなと思います」と指摘しました。

 

榎倉香邨先生(右)、井茂圭洞先生(左)の作品

榎倉香邨先生が若山牧水の短歌を書いた作品は「みずみずしい線。牧水にほれ込み、ライフワークにされている。一本筋が通り、突き詰めていらっしゃる生き方をも勉強させていただいています」と述べました。

 

 

 

 

井茂圭洞先生は「(かな作品における)お考えがそのまま調和体にも反映していらっしゃいます。エネルギーを溜めて見せ場を作り、深くてエネルギッシュな作品」。池田桂鳳先生は「京都の先生で、はんなり、優しい。散らし書きも自然に流れておだやか。だけどよく見ると、山にもいろいろな形があり、ご自分の中でしっかりイメージを作ってお書きになっている」と述べました。

 

土橋先生の作品は童謡詩人・金子みすゞの詩。齊藤先生は「蜂はお花の中に お花はお庭の中に・・」と、同じ「中に」という言葉が何度も出てくることを挙げ、「細めに書いたり、草書体で書いたり、太め、小さくと、すごく考えているのにそれをあからさまにせず、とても自然な書き方をされている」と述べました。また、今年の「日本の書展」(全国書美術振興会主催)に出品した土橋先生の作品も「さくら」という言葉が繰り返される山頭火の句「さくらさくら咲く桜ちるさくら」だったことを挙げ、「あえて同じ言葉が出てくる題材を選び、ご自分の限界に進んで挑戦なさっている」と感想を述べました。

 

 

2019年9月10日(火)10:05