東京展ギャラリートーク⑪ 吉澤鐵之先生

吉澤鐵之先生(漢字) 8月31日、国立新美術館

執行役員以上の先生方の作品を中心に解説されました。

 

 

吉澤先生は真っ先に古谷蒼韻先生の遺作の遺作「飲中八仙歌」(杜甫)を紹介。「古谷先生はこの詩がお好きで、何回も書いている。すべて暗記しているから、筆の動きも自在。内容を理解して書くことが大事だという良いお手本です」と述べました。

 

有名な一節「李白一斗詩百篇」(李白は酒を一斗飲むとたちまち百編の詩を作った)以下を音読すると、「古谷先生は興に乗って書かれていて、時には一行に大きい字を一字だけ書いている。最後は字が(紙幅に)入らなくなって小さい字になっているが、それが落款みたいな景色になっているかもしれません」と、古谷先生の筆遣いを追いながら解説。「傑作だと思います」と感嘆しました。

 

97歳の梅原清山先生の「瑞気集門」は「素晴らしい気がこの読売展にいっぱい集まってくるように、というおめでたい文句を書かれている」と述べました。

吉澤先生は「作品は(会場で配布する)鑑賞ガイドでご本人がどういう気持ちで書いたかを知って見るだけでなく、ご本人が何歳で、どこに住んでいらして、どんな性格の先生で──ということが分かると、『なるほど、だからこういう作品なのか』と思う。『書は人なり』と言いますが、興味があったらぜひ先生について知る努力をしてみてください」と語りました。

 

漢字、かな作品を一つずつ説明したあと、最後に自作「精忠」を解説。「とても忠義心が強いという言葉です。去年の大河ドラマ『西郷どん』を楽しみながら拝見したが、人々から求められて西南戦争を起こし、死んでしまったのが残念だった。悠々と釣りでもして過ごさせてあげたかったと思い、自然にこの詩ができた」と七言絶句を読み上げました。

 

維新亂世盡精忠 無血開城千載功 可惜西南戦争事 兆民不許一閑翁

 

「西郷さんの精忠に感動して書いたので、真っ正直な字になってしまいました。でも、詩の意味が分かれば、ふざけては書けないことが分かるでしょう?」とユーモラスに語りました。

古い屏風を剥がした紙に作品を書く吉澤先生は、「この詩文に金屏風は合わないと思いましたが、銀屏風はなかなか手に入らなくて貴重なんです。四曲屏風を見つけたので、それを剥がして書きました。まずまず狙い通りになったかなと思っています」と制作の舞台裏を明かしました。

 

吉澤先生は「私は自分で詩を作って、紙を探してきて、判まで彫る。表具以外は全部自前でやる作家です」と述べ、「今後とも(今回は)何を書いたのかな? という目で見ていただければ」とトークを締めくくりました。

 

 

 

 

2019年9月11日(水)11:40