東京展ギャラリートーク⑤ 大橋洋之先生

大橋洋之先生(漢字) 8月27日、東京都美術館

執行役員以上の先生方の調和体作品を中心に解説されました。

 

 

大橋先生は冒頭、調和体について解説。「抽象絵画などの美術と違い、書は文字が書かれているために『読もうとしても読めない』と素通りされてしまう。読めるに越したことはないが、書から発する”気”のようなものを感じていただければいい。たとえば山に登って素晴らしい景色に感動した時、あまり理由というものはない。分析していくと空気が澄んでいるとか、雲海が美しいとか、いろいろな理由が分かってくるが、見た瞬間の感動が一番かなと思う。それと同じく書も、自分が持っているフィルターやオブラートみたいなものを外し、ピュアな心で向かっていただければ、力強さ、あたたかさ、流動感などが感じ取れるのではないか」と述べました。

 

 

具体的な鑑賞ポイントとしてまず挙げたのは、額の形式の違い。縦作品、横作品、四角い作品によって、見る人の目の動きも変わり、書き手の先生方はそれも意識して揮毫していることを指摘しました。また、表具や落款に絞って見ることもすすめ、落款の入れ方、落款印の押し方について「終わりよければすべて良しではありませんが、先生方の落款の入れ方は抜群。落款に続く印の大きさや、捺す間隔、遊印や関防印が捺されているかなども見どころ」と続けました。

 

その上で、「ここには日本を代表する先生方の書が一堂に並んでいるが、類型作というものがない。それほど作品に個性が表れている」と一つ一つ解説しました。

 

 

市澤静山先生(右)、角元正燦先生(左)の作品

市澤静山先生の二行書きの作品は、「先生に直接お聞きしたところ、平仮名が弱くならないよう、漢字に負けないように書いたとおっしゃっていました」。角元正燦先生の自作の言葉「台風の眼の中で鳴く油蝉」は、「先生は徳島のお生まれで、子供の頃に見た漁師町の原風景だそうです」と、調和体作品に自分の言葉を書いた一例として紹介しました。

 

 

 

 

 

 

髙木聖雨先生の作品は、良寛の言葉「生涯蕭灑たり破家の風」。大橋先生は中央の「た」に注目し、「平仮名の『た』は、もともと漢字の『太』を字母としている。草書の『た』を書くようなイメージで、漢字とうまく調和させている」と指摘しました。「読売書法会が提唱する調和体は、品格と格調をもって漢字と平仮名をいかに調和させるかにかかってくる」と説明。漢字と平仮名の一方を極端に大きく書くようなことはせず、両者をほぼ同格に扱っている点を特徴に挙げました。

 

 

髙木聖雨先生(右)、星弘道先生(左)の作品

星弘道先生は「布海苔牋」という加工紙にジョン・ラボック(イギリスの銀行家、著述家)の言葉「太陽が花を彩るように藝術はさまざまな色に人生をかざる」を揮毫した作品。「墨が入りにくい為、線の表情を、筆圧の変化を意識しながら書いてみた作品です」という星先生のコメントを紹介しました。

 

 

 

 

 

大橋先生の師である新井光風先生の作品は、今世紀に入って発見された秦の始皇帝時代の「里耶秦簡」(りやしんかん)の肉筆文字に草書的な文字を見いだした驚きを書いた自作の言葉。「新井先生は中国で陸続と発見されている木簡、竹簡の肉筆文字を研究してこられた。秦の時代には草書がないと言われてきたが、それが発見された驚きを書かれている」と解説しました。

 

 

尾崎邑鵬先生(右)、梅原清山先生(左)の作品

尾崎邑鵬先生、梅原清山先生は、90代半ばの年齢を感じさせない迫力ある作品。「みずみずしい力強さ。若々しく、躍動感がある。感服するしかない作品です」と述べました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2019年9月10日(火)10:00