東京展ギャラリートーク 5 有岡先生+吉澤大淳先生


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

東京・六本木の国立新美術館で開催されている第34回読売書法展のギャラリートークが、2日午後、読売書法会常任理事の有岡●シュン崖先生=写真上 中央=と吉澤大淳先生=写真下 左=をお迎えして開かれ、役員の先生方の作品と大賞・準大賞作品を 約1時間にわたって解説されました。

 

まず吉澤先生が大賞・準大賞の作品のコーナーへ。

折川司さんの調和体による大賞受賞作品は、伸びやかな筆線とリズム感、効果的な余白による明るさを指摘され、その温かみをたたえつつも、意思の強さを感じさせる魅力を説かれました。

準大賞では、かなの川合広太郎さんの作品について、線が続いていながら多様な姿を見せている点に着目。淡墨の美しさ、潤渇の味わい、吟味された紙などが作り出す優美、風雅な世界を魅力としてあげられました。

漢字の城市魁岳さんの作品は、ゆったりした呼吸の中で書かれた神経の行き届いた力強い線、せめぎあう白と黒に注目されました。

澤藤華星さん(漢字)の篆書作品については、垂直、縦長、左右対称、正面性という篆書の特徴を典型的に備えた正統的、重厚な作品で、字の中の空間、全体の空間構成に優れた豊かな造形性に着目されました。

岩井英樹さん(かな)の巻子作品は、まず古筆の持つ優美な流れや空間を特徴として挙げ、近づいてみないとわからない線の表情、紙の繊細な図柄・色合いにも注意を促されました。「どのような筆、墨、紙を使っておられるのか、興味をひかれます」と述べ、先生自身、あらためて作品を熟視されていました。

山内香鶴さん(漢字)の作品については、緊張感のある力強い表現と思い切って使った余白に注目し、「これで作品が明るく仕上がりました」と解説されました。

大池青岑さん(調和体)の作品は「発色のきれいな美しい作品」と述べられ、線の強さと柔らかさを調和させた技量を「何の違和感もなく見せるのは簡単ではない」と評されました。

筈井淳さん(漢字)の作品では自由奔放、大胆な渇筆に着目し、「これだけ渇筆で書くと普通は弱くなるものですが、筈井さんの作品はそのような感じがまったくありませんね」と語り、根底に強靭な線を引く力量があることが作品を成り立たせていることを指摘されました。

篆刻の辻敬齋さんの作品は、上下二つの作品に通じる刀のキレと、思い切った造形上の演出を魅力として挙げられました。

 

次に有岡先生が登場。

最高顧問の先生方の作品が並ぶギャラリーでマイクをとられました。
有岡先生はまず、青山杉雨先生の門下生となられた時に「学問から始めよと、先人の言葉、書と合わせて学問をやらなければならないことを指導されたエピソードを披露されました。続いて、数年前、高木聖鶴先生の個展で古今和歌集の長い巻子作品のどこにも手の滞りがないのに驚き、高木先生ご本人にお話を伺ったところ「(書く和歌は)すべて覚えています。かな書きとして当然のことです」という返事が返ってきて圧倒された思い出を語られました。いずれも、書に真剣に立ち向かうために必要な心得を諭し、物語る言葉でした。

そして、90歳を超えてなお力強い書作を続けておられる先生方の作品が並ぶコーナーで、自由自在で理想的な境地、絶妙な構成美、一本一本の線の強さ、多様な紙面構成による美しさなどを作品に即して解説されると、聴衆はしきりに頷いて聞き入っていました。

 

東京展は3日まで。午後2時から吉澤鐡之先生のギャラリートークが1階展示室で行われます。閉館は午後6時です。

 

 

 

2017年9月3日(日)13:36

東京展ギャラリートーク 3 有岡先生+河西先生

第34回読売書法展のギャラリートークが、31日午後、読売書法会常任理事の有岡●(シュン)崖先生(漢字)=写真上 右=と河西樸堂先生(篆刻)=写真下 中央左=をお迎えして開かれました。
役員書家の先生方の作品と大賞、準大賞の作品について、約1時間にわたって解説されました。

 

河西先生(篆刻):

河西先生はまず、篆刻の常任理事の先生方の作品をとりあげ、使用されている殷・甲骨文字から周・金文、戦国・篆文、秦・小篆、漢・印篆、後漢以降の鑿印まで、時代ごとの文字の特徴を解説し、さらに、たとえば同じ小篆を使っていても多様な作品があることを作品に即して説明されました。隋、唐の時代にも印に使われた字体はあるものの、篆刻では後漢の印篆までが模範とすべき古典とされており、常任理事の先生方の作品も印篆までを題材とされています。読売書法展では、各先生とも古典を重視、尊重して制作に取り組まれていることを強調されました。
また、紙質、印泥の色合いにもそれぞれの先生の感覚、傾向があり、印泥は一人の先生でも10種類を超える印泥から選ばれるとのこと。また、落款、側款にも朱と黒の対比など構成上の考えが反映されていることに触れられました。
準大賞の辻敬齋さんは朱文は甲骨文、白文は鑿印調の作品ですが、共通して言えるのは線質の鋭さ、強さです。「パッと見て、線の印象が強い。ぽつんと置かれていてもまったく寂しくないですね」と作品の魅力を解説されました。

 

有岡先生:

有岡先生は、まず、作品を見る際のポイントとして、造形の美、鍛錬された線の魅力、白と黒の対比などをご指摘。最高幹部の先生方の作品の、線の生命感や卓越した白の残し方・取り込み方を紹介された後、読売大賞・準大賞の解説をされました。

大賞の折川司さんの作品は、2年連続となる調和体の作品です。中心となる「霊」の字の「ドンと筆を置いて、飛沫が飛ぶ」ところに注目し、その求心力が作品の大きな力になっていることを指摘されました。

続いて準大賞を展示に沿って解説されました。まず、筈井淳さん(漢字)の作品は、大胆な線の使い方、隣の字との関係に注目しつつ、「一気に書き、滞ったところがないのが魅力」と見どころを紹介。

大池青岑さん(調和体)の作品については、直線的な楷書に対してひらがなは曲線が多いなど、漢字とひらがな、カタカナを一緒に書くことの難しさに触れた上で、大池さんが行草を用いることによって漢字とひらがなとの親和性を高めていることを指摘。さらに「カーン」の「ー」という縦の一本棒に多少屈折を入れ、ややカーブさせているところなどに注目し「工夫を感じさせずにさらりとやってのけた」と評されました。

岩井秀樹さん(かな)の巻子については、古筆の美をその魅力の第一に挙げられました。落ち着いた雰囲気を醸し出す、やや茶系の紙にも触れつつ、微妙で流麗な線を「澄みきった線」と表現されました。

城市魁岳さん(漢字)の作品では、「最初から最後まで一気に書いた、停滞のない痛快さ」とその魅力を語られました。本文と一体化したかのような落款の妙味にも着目されました。

澤藤華星さん(漢字)は金文の作品です。線を「つぶさない」で残し、それによって空間が微妙に残り、明るさが生み出されていることを指摘。微妙、絶妙な構成と技術に注目されました。

川合広太郎さん(かな)の作品では、筆が開いたり閉じたりする筆法を取り上げ、岩井さんの細い字体と比較しながら、線の美しさの多様性に言及されました。

山内香鶴さん(漢字)は、筆の先が開いた「はじけた」筆遣いの多さや、絶妙な行間が作品を明るくしていることに注目。最後に字がだんだん小さくなっていく箇所を「なかなかオシャレでニクイ」と評されました。

 

2017年9月3日(日)13:34