上野誠・奈良大学教授が「万葉集」テーマに講演

第73回日本書芸院展の初日、国文学者の上野誠・奈良大学文学部教授が「万葉集は言葉の文化財」と題して記念講演を行いました。
上野先生は万葉文化の研究者として多くの著作を発表する一方、軽妙な語り口でテレビ、ラジオに出演。読書家としても知られ、読売新聞の読書委員(書評委員)も務めました。

 

講演する上野誠先生=4月24日、大阪国際会議場で

 

上野先生は講演会の冒頭、「少し早めに来て(会場隣の)リーガロイヤルホテルでお茶を飲んでいたら、横から『今日の講演者は上野先生らしいけれど、本当は中西先生の方が良かったのになあ』という会話が聞こえた」と、新元号「令和」の提案者とされる中西進・国際日本文化研究センター名誉教授の名前を挙げ、会場を埋めた聴衆を笑わせました。

 

その上で、中村伸夫先生が揮毫した「初春令月」「気淑風和」の二幅を背に、「令和」の出典である万葉集「梅花の歌三十二首」の序文の私訳を朗読。「令」「和」の字を含む「初春の令月にして、気淑(よ)く風和(やはら)ぎ・・」の一文を解説し、「風が和らぎ、天の気、地の気、人の気も良くあってほしいという思いを込めた元号が定められた」と述べました。

 

上野先生は万葉集「巻一」の巻頭歌、雄略天皇が春の若菜摘みの乙女に呼びかけた「籠(こ)もよ み籠持ち・・」について、摘んだ若菜を茹でて食べることが春の生命力を体に取り入れる行事だったと説明。歌の中には当時の季節感や信仰、風習などが詠み込まれており、「いくら文法を勉強しても歌の心には近づけない。現在の古典教育には『実感』というものが欠けている」と指摘し、「たとえば学生に『花冷え』という言葉を教え、『今日は花冷えですね』と誰かに話しかけてみるように言えば、言葉が持つ生活実感が分かるようになる」と述べました。

 

また、「会場を回り、出展された作品を見て、書というものは静止した絵画、アートとしての側面とともに『音楽だな』と思った。先生方がどんな息づかいで書いていらっしゃるか伝わってくる」と感想を口にし、古今和歌集の仮名序「いきとしいけるもの、いづれかうたをよまざりける」を引いて、「歌を詠むのは人間普遍の文化」「詩は音楽であることを忘れてはいけない」と語りました。

 

上野誠先生と黒田賢一理事長(右)、中村伸夫先生(左)


 

 

2019年4月26日(金)15:12